参議院「安保特別委員会」の議決の不存在を再度確認し、委員会会議録の虚偽記載を非難する弁護士有志声明

参議院の特別委員会での安保関連法案の議決の問題については、すでに、弁護士有志の声明をご紹介しました。

「参議院『我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会』での安保関連法案の議決の不存在確認および審議の再開を求める弁護士有志声明」のご紹介

 

その弁護士有志が、この度、新たな声明を出されたそうですので、以下、ご紹介いたします。

 

参議院「安保特別委員会」の議決の不存在を再度確認し、委員会会議録の虚偽記載を非難する弁護士有志声明

 

【はじめに】

平成27年10月11日(日曜日)に、参議院「安保特別委員会」会議録が公表された。しかし、会議録は事実を記録するものであり、事実以外の事項が記載されていれば、虚偽記載となる。そこで、この声明では、まず第一に、安保特別委員会で生じた事実を検証し、議決が「不存在」であることを確認する。そして、次に、会議録についての問題点を論証する。なお、後述のように、国会との関係では「会議録」と「議事録」という語句の意味の違いが重要であることに留意して頂きたい。

 

【結論】

1.会議録が作成・公表されたことは、もともと不存在であった委員会採決を成立させるものではなく、不存在なものは不存在である。

2.平成27年10月11日(日曜日)に公表された参議院「安保特別委員会」会議録は、虚偽記載を含むものであり、かつ憲法57条2項及び参議院規則に違反する違憲違法なものである。

 

【分析】

第1 そもそも安保委員会の議決自体が「不存在」であること。

(1)議決不存在

参議院規則136条1項は「議長は,表決を採ろうとするときは,表決に付する問題を宣告する。」と定めており,参議院規則137条1項は「議長は,表決を採ろうとするときは,問題を可とする者を起立させ,その起立者の多少を認定して,その可否の結果を宣告する。」と定めている。これは本会議の条項であるが,委員会にも準用される。すなわち,参議院委員会先例155条は「採決を行うには,委員長は,まず表決に付する問題を宣告する。」,「挙手又は起立により採決するときは,委員長は,問題を可とする者を挙手又は起立させ,挙手又は起立者の多数を認定して可否の結果を宣告する。」と規定している。

そして,議決(表決)は議員による議題(問題)に対する賛否の意思表明であるから,参議院委員会先例155条の「委員長」による表決に付する問題の「宣告」は,議決権を有する議員が明瞭に聞き取れるものでなければならない。これを欠いた「議決(表決)」は,なんらかの議員の意思表示がなされていたとしても,そもそも意思表明の対象を特定することができないのであるから,議決(表決)は外形的に不存在というほかない。

本年9月17日の安保特別委員会については,映像記録を見ても,委員長による議題の宣告がなされたことは確認できない。また,速記録でも,「聴取不能」とされており,議題の宣告がなされたことは一切確認できない。

また,委員長は,挙手による採決なのか起立による採決なのかを宣告する必要があるが,いずれの採決方法が採用されたのかは全く不明である。

さらに,映像記録を見ても速記録を見ても,「議場騒然」の状況であり,採決の方法が挙手か起立かを問わず,議題に対する賛成者が多数であるか否かを確認することが不可能な状況であった。これでは法的に見て議決が存在したとは到底評価することができない。

 

(2)なお、野党が暴れれて議場が騒然とすれば議決が不存在になるのはおかしいという指摘もある。しかし、仮に議場が騒然としたのが野党に起因したとしても、事実として議決が存在していない以上、それは不存在と評価せざるをえない。また、委員長は衛視を指揮して議場の秩序維持を行う権限を有しているのであって、その権限を行使することによって、議決の不存在を回避することができる。今回の安保特別委員会の議決が不存在であるとの結論は揺らぐことがない。

 

第2 委員会の会議録を「速記法」で記すことを求める参議院規則156条等に反すること。

(1)参議院の委員会の会議録は速記法によらねばならない。

参議院の委員会においては会議録を作成することとされている(参議院規則56条)。衆議院と異なり、参議院においては、委員会会議録について本会議の規定を準用することとされており(参議院規則59条)、ゆえに、すべての議事は速記法によらねばならない(参議院規則156条)。すなわち、参議院の委員会は、速記者がいなかったり、速記者が聞き取れなかった場合には、会議は進行しえないのである。したがって、参議院の委員会の記録は、録音を以って行うことができない(元衆議院事務総長・鈴木隆夫「国会法の理念と運用」241頁)。

衆議院規則が委員会の会議録について速記法による速記を要件としなかったのは、已むをえない場合には速記を付さないでも委員会の会議を開き得る方法を予め考慮したからである(鈴木隆夫「国会運営の理論」412頁)。他方、参議院の委員会は、良識の府としての役割を発揮すべく、極めて厳格な逐語性を追求したものである。そして、速記法自体も衆議院と参議院で方式が異なっている。

 

(2)「速記は言葉の写真」

速記法とは、速記者が議場において発言を速記符号により書き留めて、これを逐語的に文章記録として置き換えていく方法をいう(元参議院委員部長・佐藤吉弘「注解参議院規則(新版)」259頁)。速記は「言葉の写真」であると言われる。すなわち、速記者は耳から入ったものを逐語的に目で読むものに換えていき、速記者の耳に入っていないものは「てにをは」であっても付け加えないのが基本的作業である。英国では、速記者は「議院の耳」といわれ、議事速記録への色づけは厳格に禁止されているが、わが国でも同様というべきである。「速記原稿は、神聖なものであって、何人もこれに手を加えることを許されない」のである(同「注解参議院規則(新版)」263頁))。

 

(3)なぜ「会議録」なのか?

我が国では、帝国議会の時代には、議事録(より公式なものものだが、院内の事務的なもので公刊されなかった。)と議事速記録(会議の経過を逐一発言されたとおりに記録したものであり、公刊された。)の2つが存したが、戦後の国会では、一本化されて会議録のみとなった。そして、会議録は、前記のとおり速記法によらねばならないとされていることから、会議録は、主として議事速記録の性質を帯びている。すなわち、会議録は、記録の使命を担う者がすべての発言事実をありのままに書いた逐語記録であることを要し、これが記録の完全性を担保する

 

(4)高度の教養と倫理を有する速記者

国会の会議録の逐語記録の作成には、記録の倫理を身につけ、高度の教養と専門知識、豊富な経験を持つ専門職(=速記者)が作成に当たってきた。

そしてこれこそが、現代社会においても、「すべての議事は速記法によらねばならない」とされている理由である。つまり、議決に関せず、独立した職責を有する速記者に対して、会議の議事の内容をありのままに再現するという職務を与え、正確かつ逐語的な会議録の作成を委ねたのである。よって、仮に録音機材に入っていた発言であっても、その場の速記者の耳に入らなければ、発言はなかったのと同じである。

そうすると、速記者が聴取不能である場合に、速記以外の手段を用いて記録したものに基づき委員会会議録を作成することは、「すべての議事」を速記法で記録することを求めている参議院規則156条・59条・56条に明確に違反する。

 

(5)この会議録の正確性の担保は、憲法で定める国会の会議公開原則から導かれる会議録の保存義務(第4参照)等に資するものである。

 

第3 会議録の訂正は字句に限られており、かつ発言の趣旨を変更できないこと

参議院規則は、「発言した議員は、会議録配付の日の翌日の午後五時までに発言の訂正を求めることができる。但し、訂正は字句に限るものとし、発言の趣旨を変更することができない。」と明確に定めている(参議院規則157条)。これは委員会会議録にも準用される(参議院規則59条)。この条文の趣旨は、せっかく速記法によってなされた記載の正確性の保障を担保する点にある。当然のことながら、発言しなかった委員が、発言があったかのような内容に会議録の訂正を求めることは認められる余地がない。

 

第4 存在しなかった事実は、委員長権限で会議録に掲載できる事項に含まれない。

(1)参議院規則では、議長において必要と認めたものを会議録に掲載するとしている(参議院規則157条)。これは委員会会議録にも準用される(参議院規則59条)。

平成27年10月11日(日曜日)に公表された参議院「安保特別委員会」会議録の最後に付け加えられた「本日の本委員会における委員長(鴻池祥肇君)復席の後の議事経過は、次のとおりである。」以降の部分(以下「本件追加部分」という。)について、鴻池委員長は、「委員長において必要と認めたもの」に該当するとの立場なのであろう。

 

しかし、前述のすべての議事は速記法によらねばならない(参議院規則156条)との規定の趣旨からすれば、委員長が必要と認めて掲載できるものの範囲は、極めて限定されるというべきである。

また、速記法の条項に言及するまでもなく、そもそも会議録に掲載できるのは、事実のみである。実際に生じていないことや、委員長の意見や希望を書くことはできない。しかるに、速記者が「聴取不能」と記している以上、「速記を開始し、」という事実はない[1]。ましてや、「右両案の質疑を終局した」事実や「両案について附帯決議を行った。」との事実は、存在していない。

さらに、「いずれも可決すべきものと決定した。」などいう「べき」論は、委員長の意見又は希望にすぎない[2]

このように、本件追加部分の掲載を「委員長において必要と認めたものを会議録に掲載する」という参議院規則から導くことはできない。

 

(2)本件追加部分は、議事以外に「掲載」できる事項に含まれない。

会議録には、速記法による議事の「記載」以外に、一定の事項を掲載することが通常である。しかし、それは、会議の年月日のような、会議録を読みやすくするための形式的な事項に限られる。ましてや、議事として審議されてもいない事項を掲載することを認めるものではない。

 

参議院委員会先例録300条は次のように定めている。

「300 委員会会議録に掲載する事項に関する例

委員会会議録には、速記法によって記載するもののほか、次の事項を掲載する。

(1)会議の年月日及び曜日

(2)開会、休憩及び散会の時刻

(3)委員及び委員長の氏名、選任又は異動年月日

(4)出席した委員長、理事及び委員の氏名

(5)出席発言した他の委員会の委員長及び委員外議員の氏名

(6)出席した議長、副議長、発議者、衆議院議員、国務大臣、内閣官房副長官、副大臣、大臣政務官、会計検査院長、検査官、政府特別補佐人、最高裁判所長官の指定した代理者、国会職員及び政府参考人の氏名

(7)出席発言した説明員の氏名

(8)出席した証人、公述人及び参考人の氏名

(9)会議に付した案件

(10)付託案件の名称、内容及び付託年月日(予算、決算、予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書等、国庫債務負担行為総調書、国有財産増減及び現在額総計算書、国有財産無償貸付状況総計算書については、その内容を掲載しない。)

(11)その他委員会又は委員長が必要と認めた事項」

 

1号から10号までの事項は極めて形式的な事項であるところ、同様に、11号の「その他委員会又は委員長が必要と認めた事項」も形式的な事項に限られるというべきである。特に、現実に審議されていない事項を「掲載」するなどということはあってはならない。

例えば、「休憩後、開議に至らなかった」といった事項(本年9月25日の本会議の会議録参照)が11号により「掲載」できる事項といえる。

本件追加部分は、審議や表決という議事の実質的な部分に渡っており、かつ実際には行われていない事項を「掲載」したものであるが、これは参議院委員会先例録300条に反する。

なお、参議院委員会先例録302条は、「議場騒然のため速記不能の箇所があった」場合に議事経過を「掲載」した事案を載せている。しかし、この302条が対象とするのは、継続審査要求であるところ、継続審査要求は、本来的に委員長権限に属するものと解されている点で、法案の採決とは全く性質が異なる。

また、以前にも同様の処理をした例があるとの指摘もなされているが、既に論じたことから明らかなように、当該過去の例こそが違法であるというべきである。

 

第5 虚偽記載がされた会議録は会議公開の原則(憲法57条2項)に反すること。

国会の会議とは、議事の内容、経過や結論などを記録し、それを伝えるための文書である。会議録を残すのは人類の英知の結晶である。正確な記録を残すことにより、現在及び将来の国民に対して、正確に事態を伝えることが可能となる。

会議録は、起こった事実を記載するものである。会議録の記載の正確性を決めるのは生じた事実そのものである。当該事実が存在しなかったのであれば、会議録に記載されていたとしても、当該事実はやはり存したことにはならない。生じていない事実を記載した場合、それは虚偽記載とよばれる。

前述のとおり安保特別委員会の採決時においては、速記者も聴取不能の状態であり、また現場にいた野党議員や傍聴席にいた傍聴者も委員長の声は全く聞こえず、何が起こったかわからない状態であったと明言している。したがって、事実として採決は「不存在」である。

与党からの申し入れで、本件追加部分を追加したことは、存在しない事実を記載したことに他ならず、今回の会議録は虚偽記載であることは明白である。

そもそも、国会は、近代議会制に基づくもので、主権者にその存立の基礎を置く、その根本原則が会議の公開である。つまり、代表民主制であって、全ての主権者が議事に参加できず、議場で傍聴することもできないことから、国会の会議録は、国会に正当性を与える大変重要なものである。

このため、憲法57条1項本文では「両議院の会議は、公開とする。」とされ、同2項において、各議院の会議録の保存、公表、頒布義務が定められている。

このことから、当然ながら、虚偽の内容を記載した会議録を保存しても何の意味も無いし、明らかに公開原則に反することになる。よって、今回の参議院の委員会の会議録は憲法57条2項に違反する。

 

第6 委員会会議録自体が矛盾を内包していること。

また委員会会議録自体が矛盾を内包しており、到底、検証に耐えうるものではない。

1)速記者が聴取不能と書いた部分は未確定版のまま維持された。聴取不能なものは再現不能であるのに、なぜ後日、速記者さえ聞き取れなかった部分が追記できたのか全く理解不能である。

2)さらに、「可決すべきものと認められた」という表記をしているが、会議録は、事実を記載するものであって、作成者の意見を書くものではない。前述のとおり、委員会先例により採決は「起立又は挙手」で行うこととされており、かつ「賛成多数」の場合に可決される。多くの会議録では「起立多数と認めた」などと記載されている。①そもそも挙手と起立のいずれが採用されたのか、②いずれかが採用されたとして、賛成多数と認められたのか否か、が確認できない時点で会議録としての意味が無い。

3)速記が再開されていない。すなわち、議事は止まった状態である。すなわち、採決はできない状況にあるはずである。

4)総括質疑が行われていない以上、採決に入るには、審議打切り及び採決の動議が必須であるが、この会議録ではかかる動議が出されたのか否か、出されたとして誰が動議を出したのか、動議に対する委員長及び委員の対応はどうであったのかが全く記載されていない。

5)この会議録によると、安保法案に加えて、同月16日に与党と野党3党が合意した付帯決議が一緒に可決されたことになっている。しかし、その付帯決議の内容は16日に合意されたものであり、委員会には一度も上げられていない。付帯決議の採決の前提として、出席した委員に付帯決議の内容を認識させることが不可欠であるが、事実としてそのようなことは行われていない。どのようにして付帯決議をすることが可能であったのかが、会議録からは全く判明しない。

 

第7 結論

以上より,いずれの角度から見ても,安保特別委員会の採決は不存在であり、かつ平成27年10月11日に公表された本件追加部分は、違憲・違法で無効なものである。

 

【おわりに(本当に「国民の代表」としてふさわしい行為か?)】

最後に、安保法案の委員会採決に賛成したとされる国会議員(特に子どものいらっしゃる国会議員)の皆様に問いたい。もし、子どもさんが学級会やクラス会で意見が割れたときに、安保特別委員会のような採決手法を採ったとしたら恥ずかしくないのか?クラスの担任の先生が、子どもたちになぜそのような方法を採ったのかを聞いたときに、「だって国会議員の人たちも同じことをしていたよ」と返事をしたらどうするのか?今回の委員会はテレビ及びインターネットを通じて全国、全世界に配信されている。主権者は、国会議員の行動をしっかり見ている。

弁護士有志一同(82名)

平成27年10月28日

[1] 他方、例えば、参議院「安保特別委員会」会議録の1頁では、「速記を起こしてください。」との委員長の発言が記録されている。

[2] 通常は、「起立多数。したがって、本案は委員長報告のとおり可決をいたしました。」といった記載がなされる。

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