本田稔・立命館大学教授「自衛隊法改正案の狙い」

本田稔・立命館大学教授(刑法)の「京都民報」の記事を先日、転載して紹介いたしました。

本田稔・立命館大学教授の「自衛隊法『改正』案で罰則適用拡大  『戦争に行くな』は犯罪」

本田教授には、この共同ブログのために、論説を執筆していただきました。

以下、掲載いたします。

自衛隊法改正案の狙い

立命館大学 本田稔

 安保関連法案のうち「自衛隊法改正案」は、自衛隊員が服務規律に違反した場合の処罰規定を、それを国内において行なった場合だけでなく、国外において行なった場合にも適用することを目論んでいます。集団的自衛権の名のもとに、アメリカと共同して海外で戦争を行なう上で、自衛隊員の士気を高め、組織の規律を強化し、造反者を出さないことを目的とした改正であることは明らかです。

(1)自衛隊法改正案122条の2の条文

自衛隊法改正案では、現行122条と123条の間に、新たに「122条の2」を盛り込もうとしています。それは、次のような条文です。

122条の2第1項  第119条第1項第7号及び第8号並びに前条第1項の罪は、日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する。

同第2項  第119条第2項の罪(同条第1項第7号又は第8号に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者に係るものに限る。)及び前条第2項の罪は、刑法第2条の例に従う。

(2)自衛隊法改正案122条の2の犯罪類型

まず、122条の2第1項は、119条第7号および第8号並びに122条第1項の処罰規定を「日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する」としています。119条第7号とは、上官の職務命令に対して共同して反抗する罪(上官命令共同反抗罪)であり、第8号は、指揮官が上層部の職務命令に反して自分の部隊を不法に指揮する罪(自部隊不法指揮罪)であり、そして「前条」、つまり122第1項とは、これら上官命令共同反抗罪と自部隊不法指揮罪の共謀・教唆・煽動です。要するに、122条の2第1項は、上官命令共同反抗罪、上官命令不法指揮罪、これらの罪の共謀・教唆・煽動を「日本国外において犯した者にも」、自衛隊法の罰則を適用するとしています(2015年6月18日の日弁連意見書参照)。

次に、122条の2第2項は、122条1項の罪の全部、すなわち防衛出動命令を受けた者の団体結成罪(1号)、職務離脱罪(2号)、上官命令反抗・不服従罪(3号)、自部隊不法指揮罪(4号)、職務懈怠罪(5号)、さらに職務離脱罪および上官命令反抗・不服従罪の教唆・幇助、団体結成罪・自部隊不法指揮罪の共謀・教唆・煽動です。要するに、122条の2第2項は、団体結成罪、職務離脱罪、上官命令反抗・不服従罪、自部隊不法指揮罪、職務懈怠罪、さらに職務離脱罪と上官命令反抗・不服従罪の教唆・幇助、団体結成罪と自部隊不法指揮罪の共謀・教唆・煽動について、「刑法第2条の例に従う」としています。つまり、これらの罪を日本国外において犯した「すべての者」(日本国民だけでなく、外国人も含まれる)に適用するとしています(日弁連意見書参照)。

(3)自衛隊法改正案122条の2第1項の特徴

一般に刑法の場所的・人的適用範囲としては、次のような規則があります。「すべての者の国内犯」(刑法1条)、「すべての者の国外犯」(刑法2条)、「日本国民の国外犯」(刑法3条)、「日本国民以外の者の国外犯」(刑法3条の2)、「公務員の国外犯」(刑法4条)がそれです。122条の2第1項の「日本国外において犯した者にも」という規定は、これらのうちのどの規則に対応しているのでしょうか。先にも述べたように、自衛隊法は、自衛隊の組織的規律を維持するために罰則を設け、それは自衛隊員のみが遵守すべき規則なので、一般の国民は遵守を義務付けられていません。従って、122条の2第1項によって処罰される119条第1項第7号及び第8号並びに前条第1項の罪には、122条の2第1項には、刑法2条ないし3条の2の規定を適用することはできません。自衛隊員は、身分的には「公務員」なので、これらの犯罪には「公務員の国外犯」(4条)の規定を適用するのが妥当であると思われますが、法案はそのような案文にはなりませんでした。それには、次のような理由が考えられます。

自衛隊法上の犯罪は、自衛隊員という身分・資格を有する者が日本国内で行なった場合に成立する罪、いわゆる「構成的身分犯」です。従って、日本国民であっても、自衛隊員でなければ、それを単独で行なうことはできません。日本国内にいる外国人がそれを行い得ないことは、言うまでもありません。しかし、自衛隊員ではない日本国民や外国人が、日本国内で、自衛隊員を教唆・幇助して、違反行為を行なわせた場合には、刑法65条1項が適用されて、自衛隊員ではない日本人・外国人にも、違反行為の教唆・幇助が成立すると解されています。それでは、公務員でない日本人や外国人が、日本国外において、日本国外にいる自衛隊員を教唆・幇助して、職務離脱や上官命令反抗を行なわせた場合、刑法65条1項が適用されるのかというと、かりに法案が「刑法4条の例に従う」と規定されているならば、教唆・幇助は成立しないと解されます。何故ならば、4条は「公務員に適用する」と定めているため、日本国外において公務員が行なった場合は、当該公務員が正犯として処罰されるだけで、公務員以外の者がそれ以外の教唆・幇助という形態で関与しても、共犯規定を適用して処罰することはできないと解されているからです。しかし、「日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する」という案文の場合、同じように解釈できるとはいえません。「これらの罪」が正犯だけでなく、共犯も含まれると解釈できる余地があるからです。法案の作成者は、公務員ではない日本国民・外国人にも共犯規定の適用の余地を残すために、「刑法4条の例による」と書かなかった可能性があります。

しかしながら、このように条文を変えさえずれば、日本国外における日本人・外国人を共犯として処罰できると考えるのは、刑罰法規を自由自在に扱えると思い込んでいる権力者のおごりでしかありません。刑法総則に規定された刑罰法規の場所的・人的適用範囲に関する原則は、一般刑法である刑法典だけでなく、自衛隊法などの特別刑法にも適用され、その刑罰権の行使を制限するためのものです。122条の2第1項の規定案は、公務員による犯罪については、非公務員には適用しないとしてきた規制を緩和し、非公務員である日本人・外国人にも適用できるよう、その範囲を拡大するものであり、実質的には刑法4条の改悪です。日本や外国で活動する平和運動家や日本人・外国人ジャーナリストは、自衛隊が派兵された地域に赴いて、集団的自衛権の行使や後方支援活動が憲法に違反することを訴え、その任務を中止するよう求めるでしょう。そのような訴えが、上官命令共同反抗や不法指揮の教唆・煽動にあたるとして、122条の2で処罰される危険性があります。戦争の中止と平和の回復を求める活動を「戦争妨害行為」として処罰することを目論んでいるといえます。

(4)自衛隊法改正案122条の2第2項の特徴

これに対して、122条の2第2項は、「刑法第2条の例に従う」と規定しているので、刑法の実質改悪は伴っていないように見えますが、そうではありません。

刑法2条に挙げられている犯罪類型は、内乱罪、通貨偽造罪、文書偽造罪などの国家法益・社会法益に対する罪であり、それを行なった者は、日本人であれ、外国人であれ、すべて処罰されます。内乱によって被害がどこで発生するかというと、それは日本国内です。通貨偽造による被害はどこで発生するかというとのは、それも日本国内です。つまり、刑法2条は、日本の国家法益・社会法益の侵害が日本国内で発生することを早期に予防するために、その準備行為や実行が外国で行なわれた場合にも日本の刑法を適用するとしているのです。それは、あくまでの日本の国益の保護主義という立場から正当化されているだけです。

しかし、自衛隊法改正案122条の2第2項が挙げている犯罪類型は、内乱罪や通貨偽造罪のように被害が日本国内で発生するようなものではありません。それは、集団的自衛権の行使の名のもとで日本国外においてアメリカ軍と一体となって行なわれる武力行使や後方支援という名の兵站を阻害する行為であり、日本国外における戦闘および兵站の阻害行為でしかありません。しかし、それは日本国内ではなく、戦闘地域において生ずるだけです。従って、刑法2条に列挙された犯罪類型と同じように、日本国外の戦闘地域で行なわれる122条の2第2項の違反行為に刑法2条を適用することはできないように思います。法案の作成者は、違反行為によって日本の国益が損なわれると考えているのでしょう。そのように考えるならば、それもまた「日本国内における被害」といえるのかもしれませんが、刑法2条は、そのような行為に対しても適用できる規定なのかどうか、詳細な解釈論を教えてほしいものです。

 

(5)自衛隊法改正案122条の2は戦争反対を犯罪化するもの

自衛隊法改正案122条の2は、日本国外において自衛隊法上の規律違反行為を行なった自衛隊員だけでなく、それを教唆・幇助・煽動した一般民間人をも処罰するために、刑罰基本法である刑法典の人的・場所的適用範囲の原則を改悪するものです。参議院における審議を経て、廃案にすべきです。

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