統合幕僚監部内部文書に関わり国会の厳正なる対応を求める緊急声明

統合幕僚監部の内部文書については、この共同ブログで、その全文を公表しました。

自衛隊統合幕僚監部「今後の進め方」(内部文書)全文

 

憲法研究者の有志は、この統合幕僚監部の内部文書に関して国会の厳正なる対応を求める緊急声明を発しました。この記者発表は、8月21日午前10時半から参議院議員会館105で行ないます。

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統合幕僚監部がいわゆる安保関連法案の成立を前提に、詳しい文書を作成していたことが明らかになった。この文書には、憲法上見過ごすことのできない以下のような問題があると私たちは考え、国会の厳正なる対応を求めるものである。

第1に、今回明らかになった文書は、単に法案成立前に関係官庁が一般的な「分析・研究」を行なうことを越える重大な問題をもっている。そもそもこの文書を作成した統合幕僚監部は自衛隊を統合運用する組織である。また本文書によると、今後はこの統幕が主管となって「日米共同計画」という軍事作戦計画を「計画策定」するものとされている。このような軍事作戦の策定・運用にあたる組織が、その合憲性に深刻な疑義のある法案について、その成立を何らの留保なしに予定して検討課題を示すことは、憲法政治上の重大な問題である。

第2に、この文書は、「日米防衛協力のための指針」(以下、ガイドライン)実施のための国内法整備が今回の安保法案であり、この法案にない事柄は国会に諮ることなく実施されることが当然としている。これは、ガイドラインこそが日本の防衛当局にとっての最上位規範であることを露骨に示すものである。そもそもガイドラインは、政府がアメリカと結んだ政策文書であって、国会の審議や合意を経たものではない。また、この文書には本来国内法上の根拠を必要とする筈の自衛隊の運用課題も、ガイドラインのみを前提に示されている。これらは重大な国会軽視であり、独走であると言わねばならない。

第3に、この文書は、ガイドラインにも記されていないACM(同盟調整メカニズム)内の「軍軍間の調整所」設置、そして法案に特定されていない地域をあげて南スーダンPKOへの「駆付け警護」等の業務の追加、南シナ海における警戒監視などへの関与といった検討課題を記している。のみならず、「日米共同計画の存在の対外的明示」は「抑止の面で極めて重要な意義を有する」とまで明記している。これらのことは、この文書が法案内容を自衛隊トップに単に周知するための一般的な「分析・研究」文書ではなく、法案成立を前提に自衛隊がとる運用施策を特定の対外政策に結びつけ、速やか実現することを促す文書であることを示している。これは議会制民主主義のプロセスよりも防衛実務の事情を優先した対応といわざるをえず、「軍部独走」という批判をまぬがれない。

第4に、ここで挙げられている検討課題が、駆付け警護における武器使用基準の緩和、平時からのアセット防護、そして在外邦人の救出など、武力行使に直結する内容のものであることも見逃すことができない。法案のこれらの点に関する国会審議は全く不十分であるが、この文書はこうした課題を新法施行後ただちに実施することを予定している。総じてこの文書はガイドラインに基づいて事実上の武力行使を含む「切れ目のない」自衛隊運用の課題を挙げるもので、憲法の平和主義に基づく対外関係の推進に真っ向から反するものとなっている。

私たち憲法研究者有志は、国権の最高機関である国会が、今回明らかになった文書がもつ深刻な問題を受けとめ、唯一の立法機関としての役割を真摯に果たし、全国民の代表として国民の信託に応えることを求めるものである。

 

■ 賛同者(2015年8月28日 0時現在 73名)
青井未帆 (学習院大学大学院法務研究科教授)
麻生多聞 (鳴門教育大学)
足立英郎 (大阪電気通信大学)
井口秀作 (愛媛大学)
石川裕一郎(聖学院大学教授)
石埼学 (龍谷大学教授)
石村修 (専修大学大学院法務研究科教授)
稲正樹 (国際基督教大学)
井端正幸 (沖縄国際大学教授)
今関源成 (早稲田大学教授)
植野妙実子(中央大学教授)
植松健一 (立命館大学教授)
植村勝慶 (國學院大學)
右崎正博 (獨協大学法科大学院)
浦田一郎 (明治大学教授)
大久保史郎(立命館大学)
大河内美紀(名古屋大学大学院法学研究科教授)
大津浩 (成城大学教授)
大野友也 (鹿児島大学准教授)
岡田健一郎(高知大学教員)
奥野恒久 (龍谷大学政策学部、教授)
小栗実 (鹿児島大学法科大学院教員)
小沢隆一 (東京慈恵会医科大学)
上脇博之 (神戸学院大学法学部)
河上暁弘 (広島市立大学広島平和研究所准教授)
河合正雄 (弘前大学講師)
北川善英(横浜国立大学名誉教授)
君島東彦 (立命館大学教授)
倉田原志 (立命館大学教授)
倉持孝司 (南山大学法務研究科教授)
小林武 (沖縄大学客員教授)
小松浩 (立命館大学)
斉藤小百合(恵泉女学園大学)
笹川紀勝 (国際基督教大学名誉教授)
笹沼弘志 (静岡大学教授・憲法学)
澤野義一 (大阪経済法科大学教授)
志田陽子 (武蔵野美術大学教授)
清水雅彦 (日本体育大学教授)
菅原真(南山大学教授)
高橋利安 (広島修道大学)
竹内俊子(広島修道大学)
竹森正孝 (岐阜大学名誉教授、岐阜市立女子短期大学前学長)
多田一路 (立命館大学)
只野雅人 (一橋大学教授)
建石真公子(法政大学)
塚田哲之 (神戸学院大学教授)
内藤光博 (専修大学教授)
長岡徹 (関西学院大学)
中川律 (埼玉大学准教授)
中里見博 (徳島大学准教授)
中島茂樹 (立命館大学法学部教授)
永田秀樹 (関西学院大学教授)
永山茂樹 (東海大学)
成澤孝人 (信州大学教授)
成嶋隆(獨協大学)
丹羽徹 (龍谷大学法学部教授)
根森健 (新潟大学・埼玉大学名誉教授)
福嶋敏明 (神戸学院大学准教授)
藤井正希(群馬大学社会情報学部准教授)
藤野美都子(福島県立医科大学医学部教授)
前原清隆 (日本福祉大学教授)
水島朝穂 (早稲田大学教授)
三輪隆 (埼玉大学名誉教授)
村田尚紀 (関西大学)
本秀紀 (名古屋大学大学院法学研究科教授)
森英樹 (名古屋大学名誉教授)
柳井健一 (関西学院大学法学部教授)
山内敏弘 (一橋大学名誉教授)
横田力 (都留文科大学教授)
若尾典子 (佛教大学教授)
脇田吉隆 (神戸学院大学准教授)
和田進 (神戸大学名誉教授)
渡辺洋(神戸学院大学教授)

■ 賛同者からのメッセージ

 国会、国民とはまったくかかわりなく、法案成立を前提にした謀議が展開されていたことになります。
首相以下のいう「法の支配」の片りんもない、軍部の独走・暴走です。日本国憲法のテキストは一字たりとも変更されておらず現存しています。憲法に基づく政治を掘り崩す今回の文書が明らかにされた以上、作成関係者、防衛大臣すべての免職・罷免を求めます。

———— 稲正樹(国際基督教大学)

 今回の内部文書により明らかになった統合幕僚監部の『暴走』は、氷山の一角にすぎないという疑念をぬぐうことができない。特定秘密法の施行後、こうした文書が国会や国民の目に入る可能性は少なくなっている中、自衛隊制服組がどのような計画を秘密裏に進めているのか、不信感はいっそう募るところである。
審議中の安保関連法案においては、自衛隊の海外出動に対する国会承認のあり方も大きな争点であるが、このような制服組の国会軽視の運用が続く限り、国会による自衛隊の統制など画餅に帰するに違いない。
今回の文書が防衛大臣の指揮の下にあったとする特別委員会での答弁は信憑性が薄いし、仮に防衛大臣が事前に掌握していたとすれば、それはそれで大臣の責任が問われよう。「実力組織」のガバナンスのあり方として、あまりに杜撰・無責任といわざるをえない。
この一点だけでも、今国会での安保関連法の審議を打ち切る十分な理由になる。

———— 植松健一 (立命館大学教授)

 今回の件は、日本の立憲主義と民主主義を脅かす重大な事件である。防衛に従事する実力組織が議会の統制に服さねばならないことは近代国家の根本原則である。
人類史上最初の成文憲法の1つ、ヴァージニア権利宣言13条(1776年)はこう述べている。「いかなる場合にも、軍事権力は政治権力に厳正に服従し、その統制の下に置かれなければならない」。この憲法原則はあらゆる国家に妥当すべきものである。
いわんや、軍事の概念を持たず、「軍事的なるもの」が徹底的に抑制されている日本国憲法の下で、自衛隊が政治権力の統制を潜脱するような行動をとることは、自衛隊に対する国民の信頼を失わせるものである。どれほど災害救援活動をしても、今回の件のように議会制民主主義を無視する自衛隊は、国民によってまったく支持されないであろう。自衛隊の猛省を求める。

———— 君島東彦 (立命館大学教授)

 今回の統合幕僚監部作成の文書は、今年4月に再改定されたガイドラインに連動したものであるが、ガイドライン再改定自体が本来は日米安保条約を改正しなければならないものをやろうとしている点で、すなわち、憲法73条3号に規定された国会の承認をバイパスしている点で問題がある。しかも、そもそも日米安保条約自体が憲法違反であると考える。
したがって、内容的にも形式的にも憲法無視が甚だしいガイドラインにしたがって、防衛省・自衛隊が作業を進めてきたことは、とうてい認めるわけにはいかない。

———— 清水雅彦 (日本体育大学教授)

 「正当に選挙された国会における代表者」(憲法前文)であっても憲法に違反する政治をしてはならない(憲法99条)。多数決で成立した法律といえどもその内容が憲法に違反していれば無効である(憲法98条)。そのことを大前提としつつ、国家権力の行使に関して憲法は「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と定めている(41条)。
政権交代のない長期政権の下で、行政官僚が立案からその後の実施まで立法に深く関与し、議会での審議・可決が形骸化・儀式化していることについて、これを「行政国家」化現象だとして41条に違反するのではないかということがかつてから問題にされてきたが、今回の事例はあまりにもひどい。シビリアンコントロールという点でも大問題だ。
防衛大臣は最初「先取りするような検討は控えなければならない」と述べていたがあとで「私が指示した」と答弁を変更した。これでは、戦前の軍部独走と変わらない。

———— 永田秀樹 (関西学院大学教授)

 今回明らかになった防衛省制服組の統合幕僚監部が作成した内部資料は、その内容上も重大な問題を含んでいるが、報道によると、この内部資料が作成されてから国会で野党議員によって追及されるまでの3カ月の間、防衛大臣は内容把握することがなかったということである。
この事実は、ひとたび「軍部」が独走しだすと、それを「文民」がコントロールすることが極めて難しいことをよく示すものと言えるだろう。

———— 根森健 (新潟大学・埼玉大学名誉教授)

 今回の統合幕僚監部の内部文書は自衛隊の活動を、いまだ国会で審議中の
安全保障関連法案の成立を前提にして、しかも法律ではなく「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)という日米合意の政策文書を中心に行おうとするものである。この点で、議会制民主主義や文民統制(シビリアン・コントロール)の原則にもとる行為であり、憲法上疑義があると言わざるをえない。

———— 藤井正希(群馬大学社会情報学部准教授)

 これは、かつての三矢事件にも匹敵する重大な事件だと思います。中谷防衛大臣が指示をしていただけでなく、内容にも問題がないと考えている点では、三矢事件以上に深刻な事件だといってもよいかもしれません。

———— 村田尚紀 (関西大学)

 この文書は、正に実質三度目のガイドライン改正(第1回は1978の年最初のガイドライン、第2回目は1996年のガイドライン、第3回は今年4月の現行ガイドライン)に伴い構造転換した安保条約⇒日米安保体制の内容を先行実施しようとするもので、今回の安保関連法案の反憲法的、反国民的性格を最もよく示しているもといえます。
今後の審議と運動でこの危険な本質を広く明らかにして安保関連法制全体を必ず廃案に追い込みましょう。

———— 横田力 (都留文科大学教授)

■ 特別メッセージ

自衛隊統合幕僚監部作成「内部文書」を批判する

纐纈厚(山口大学教授)

 今回明らかにされた「内部文書」には、極めて重要なポイントが含まれているが、なかでも安保関連法案の制定を先取りして、事実上の戦争指導機構を自衛隊内に設置する計画が、あらためて明らかになったことである。先ずは、その点に絞り指摘しておきたい。
それは、「ガイドライン及び平和安全法制に基づく主要検討事項」(41頁)の「Ⅲ 強化された同盟内の調整」の箇所である。取りあえず、問題点を二点だけ指摘しておきたい。
第一に「A 同盟調整メカニズム」とは、これまでのガイドライン(1997年9月23日)に示されていた「調整メカニズム」(BCM)から、平時から「同盟調整メカニズム」(ACM)に変更されるとするのは、その名が示す通り、“日米共同戦争指導機構“の設置を意味する。換言すれば、”米日連合司令部“と言い換えても良い。つまり、自衛隊と米軍との共同作戦構想を調整・検討する役割から、自衛隊と米軍が文字通り一体となって作戦行動に従事するための戦闘指揮所となるのである。
そのことを具体的に示すために、「運用面の調整を実施する軍軍間の調整所(ACM内に設置)の運用要領を検討」すると明記された(強調引用者)。自衛隊統合幕僚監部で自衛隊は、既に間違いなく「軍」と自己規定しているのである。ここで言う「同盟調整メカニズム」とは、既に事実上既に存在しており、それを従来の戦時対応型から平時対応型へと転換を図った点において、頗る重大な意味を持つ。つまり、このメカニズムが機能することは、常に自衛隊と米軍が戦時対応の段階に入ることを意味しているからである。
第二に「C 共同計画の策定」の項において明記された「共同計画策定メカニズム」(BPM)の設置である。1997年の「日米防衛協力ための指針」(ガイドライン)では、「平素から行う協力」のなかで「3 日米共同の取り組み」として「包括的メカニズム」及び「調整メカニズム」と称する二つのメカニズム(機構)の設置が図られた。ガイドラインの制定に先立ち、「日米共同声明」(1997年9月)では、ガイドラインを実行する上で「決定的に重要」と位置付けられた機構だ。以後、「包括的メカニズム」はガイドラインを実行する中核組織として、翌年の1998年1月20日に発足している。日本政府は以後、この「包括的メカニズム」の下でガイドラインの実行作業に入り、有事関連法案の検討作業を進めた結果として「周辺事態法案」の国会上程に漕ぎ着けた。これを皮切りに、当該期の一連の有事法制の策定が相次ぎ実行されたのである。
そして、今回の「内部文書」では、「今までの「包括的メカニズム」という枠組みでの「計画的検討」から、「「共同計画策定メカニズム」という枠組みになり、統幕が主管となって「計画策定」を行うことになります。」と明記している。これまでの「包括的メカニズム」は、日米安全保障協議委員会(SCC)、防衛協力小委員会(SDC)、共同計画検討委員会」(BPC)から構成され、「日本有事」に向けた「共同作戦計画」や「日本周辺有事」の「相互協力計画」(事実上の「共同作戦計画」)を策定していたが、ポイントは「統幕が主管」とって作戦計画を主導する役割を担おうとしていることである。つまり、従来は米軍が主管となって作戦計画を主導していたのが、自衛隊が前面に出る方向性が明記されていることである。米軍追従型の自衛隊から日米共同型への転換を示唆している。
こうした問題の背景にあるのは、言う間でもなく集団的自衛権行使問題との関連である。集団的自衛権は、詰めて言えば米軍への支援の一環として米軍の代わりに自衛隊が戦闘を担うことを射程に据えたものである。そうした自衛隊の動きを担保するものとして、「同盟調整メカニズム」を十全に機能させることが求められている。日米安保関連法案を先取りした内容の「内部文書」では、自衛隊は既に戦闘モードに入っているのである。
以上の指摘を踏まえて厳しく批判すべきは、第一に「改訂ガイドライン」(2015年4月27日)を実質化する安保関連法案に含まれていない内容が「内部文書」に明記され、安保関連法案が成立すると直ちに、例えば指摘したような「米日連合司令部」が自動的に設置される仕掛けが用意されていることである。国会を蔑ろにし、民主主義の基本原則を全否定するものである。同時に主権者である国民に秘匿しつつ、平時から臨戦態勢を敷くためのシステムが構築されようとしていることは、平和憲法を破壊し、国民をして常に戦争の危機に晒そうとするものである。暴挙と言わざるを得ない。
第二は自衛隊制服組の独走が本格化していることである。先に防衛省設置法第12条が改正され、日本型文民統制としての文官統制の形骸化が一段と進められた経緯がある。文官と武官との対等性が担保されたのである。そうした制度変更により、自衛隊制服組の権限が一層強化され、自衛隊軍事機構の肥大化が始まっているのである。戦争指導機構の設置により民主主義が機能不全の状態の追い込まれる中で、集団的自衛権行使が具体化する段階にあって、今一度文民統制の原則の徹底化が不可欠であろう。
このように内部文書のポイントの一つを取り上げただけでも、安保関連法案がどれだけ危険に満ちたものであるか理解できるのではないか。私たちは、そのような強面な国家や市民社会を築くために奮闘してきたのではない。平和憲法の原点に立ち返り、軍事に依存しない国家、平和市民によって築かれる市民社会の実現こそ私たち真の平和を望む者の立場ではないか。


統合幕僚監部内部文書に関わり国会の厳正なる対応を求める緊急声明」への1件のフィードバック

  1. 素晴らしい見識と学識で、なんとしても、この日本の「法の支配」「法治主義」を
    守って下さい。総理補佐官の磯崎氏のような「立憲主義」なんて聞いた事も無いって
    輩が跳梁跋扈しているのですから、たまりません!

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